面のウケについて 「小ベシミ(こべしみ)」を例にして

面のウケについて
「小ベシミ(こべしみ)」を例にして


口をへの字に結び、怒りを押さえ、物を言うのを堪えているような赤ら顔の表情の「小ベシミ」は『鵜飼』『野守』『昭君』『鍾馗』などの後シテに使用されます。

面の表情は上向きでもなく、俯き過ぎにもならない中庸の位置を「よいウケ」と言います。私たちシテ方の能楽師は面の裏側に当て物という小さなクッションを付けて受け具合を調整し、一旦決めたらその角度を動かさないように一定にし、首を据えて舞台を勤めます。
面は上に向けると緩んだ表情に、下に向け過ぎると暗い表情になりますが、適度な中庸な受けがなんとも言えぬ物言う表情になるのが不思議です。

面によって受けの幅が広いものと狭いものがあります。
「小ベシミ」は狭い場合が多く、受けの判断がしづらい面です。
下顎が出たら面は生きませんし、また引きすぎても、これまただめで、判断がむずかしいのです。
「大ベシミ」は「小ベシミ」よりスケールが上回りますが、この面の受けは「小ベシミ」より広いように思えます。

何故でしょう?

彫りの深さも関係していると思いますが、もしかすると大ベシミの表情に隠されている滑稽な部分、どこか間が抜けた感じの表情が関係しているかもしれません。
「小ベシミ」に滑稽さや間の抜けたものは微塵も感じません。だから、受けがむずかしいのかもしれません。

この受け具合は付ける人間では見られないので、他人に見て判断してもらいます。
周りの能楽師は、受けを横から目を見て判断している人がいますが、これは正確さに欠けます。私は正面から口のラインで受けを決めています。
「明生、ウケ見て」と言われた時は責任を感じながらも、私の眼力を評価されてのことと思うと、嬉しいものです。

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