秋田・唐松能楽殿の定期能にて

秋田・唐松能楽殿の定期能にて
粟谷 能夫

秋田県大仙市協和町に唐松神社が鎮座し、その神域に唐松能楽殿があり定期能を催しています。

神社発行の唐松山縁起大略によれば、太古鳥海山に降臨し、この地に居を構えた饒速日命が天祖三神を祀り、十種の神宝を安置し、天の宮と称したのが、創祀としています。その後、饒速日命は幾内に降臨しその後裔が、物部氏であり、崇仏戦争に敗れた物部守屋の一子那加世が東奥の地に分け入り、数代の後、唐松にお祀りされたそうです。また神社には秋田物部文書が伝わっています。

このように長い歴史を持ち、今でいうパワースポットの地に、平成2年「ふるさと創成」事業の一環として、唐松能楽殿が出来上がりました。京都西本願寺にある「北舞台」を手本にしたそうです。

定期能は夏に催していますので、少し暑い時もありますが、時折スーっと風が通ったり、木々の緑が目に入ったりと屋外の能の良さを体感しています。

もともと能は屋外で演じられたものでありますが、演者にとっては、開かれた空間であるだけに、演技及び演出や発声などいろいろと課題が見えてくるのも事実です。

一方、観客の方は少し暑いですが、自然が感じられる開放的な空間の中で能を楽しんでいるようです。
私がいつも感心してしまうのは、地元の中学3年生が数十人熱心に静かに観能していることです。若者たちに日本の古典文化に触れさせてあげたいとの主催者の配慮であり、素晴らしいことだと思います。

平成22年夏の定期能は御承知の通り大変異常な暑さでした。私などは装束を付けただけで玉のような汗が噴き出し、精神力を維持するのも容易ではない状態で、舞台へ出てからも、目に汗が入ったりなど大変な演能でした。中学生の一人が熱中症で倒れたほどで観客の皆様も扇子やパンフレットで涼をとっておられました。

一人の中学生が「暑い中、演者は汗を流しながら一生懸命演じているのに、観る側がパタパタと涼をとっていては申し訳ない」と呟やいているのを聞き、自己中心的でなく他人のことをおもんばかる秋田の教育は素晴らしい、全国テストで一番になる学力だけでなく、心の教育の大事さを痛感しました。この事は今年一番の感動であり、異常な暑さの置きみやげのような気がします。

そして定期能を長いこと続けてこられた大人たちの心が通じたのだと思いました。

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