解能新書 囃子方の床几
能の囃子方は笛、小鼓、大鼓、曲により太鼓が入ると4人になります。
舞囃子の時でも能の時でも、笛と太鼓は常に正座していますが、小鼓と大鼓は能の時には床几に腰掛けます。
この床几の姿勢、腰掛けるから長時間正座するより、足が痺れないで楽かと思われるかもしれませんが、そうではありません。
実は長時間腰掛けて、背筋を伸ばし緊張感ある姿勢を保つことは、体力が要りきついものなのです。
では何故、中の二人だけが腰掛けるのでしょうか?
「あれはトーテンポールのようなもの」と囃子方の先生が教えて下さいました。
舞台の橋掛りは現在、正面の鏡板を見て左側にありますが、その昔は右側にも、そして真後ろにもありました。
シテが真後ろから登場するとき、囃子方が下に座っていると、面を付けて視界の狭いシテは囃子方にぶつかる恐れがあります。
そこで、シテが安心して本舞台に入れるようにと、小鼓と大鼓が目印の役目として床几にかけました。
後見が大小前に置かれた作物で作業をするとき、また物着をするときに、小鼓と大鼓の間を行き来しても、小鼓と大鼓の方からは怒られませんが、笛と小鼓や大鼓と太鼓の間を通るようなことをしたら、怒鳴られます。
「そこを通るんじゃない!」なんて、よく能楽師の卵が怒られた光景を思い出しますが、いま立派な能楽師の先生方も、昔、子どものころは、いろいろな先輩に怒られながら成長しているのです。
こんな裏話も知って能をご覧になるのも、面白いかもしれませんね。
囃子方絵 小学館「能楽入門3」より
床几 2枚 撮影 粟谷明生
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