我流「花鏡」4

我流に現代風に世阿弥伝書の「花鏡」を読み解くことを試みてみます。

その四、先聞後見(せんもんごけん)

これは字の如く、演者は観客に先ず謡を聞かせてその後に動作を見せるべきであるという教えです。
上手な能役者はこの手法を確固として守っているため、動きの型が舞台で映えます。
例えば泣く動作(シオリ)をする時は、先ず謡われる「悲しい」「泣く」「涙」などの言葉を聞いてから行うと効果が上がります。
先日勤めた『鬼界島』では、クセの上羽の部分でシテが「せめて思いのあまりにや」と謡い、そのあと地謡は「先に読みたる免状をまた引き開き同じ跡を繰り返し、繰り返し見れども」と続けます。そのときシテは折りたたんである赦免状を再度開き見ますが、この時も拡げる型と謡の「引き開き」の言葉が同時進行してしまうと型も謡も生きないと指導されました。

シテは所作を少し遅れぎみにして、赦免状を恨みをもってじっくり開き見るところを観客に想像させる時間が必要です。そして観客の脳裏に思い描かれているものをなぞるかのように役者の動きが後押しすると効果満点です。

昔、私は泣く、悲しいという言葉があると同時に、ひどい場合は言葉以前にシオルしぐさをしてしまい、「それでは観客は聴くことと見ることを同時に処理しなくてはいけなくなり窮屈になる」と注意を受けたことがあります。美しい動きや、心に残る演技とは、実はこのように工夫がなされていることを知っていただきたいと思います。

これから能をご覧になる時に、このあたりを注意するのも一つの鑑賞方法で面白いかもしれません。