第1話 切戸(きりど)を開ける

切戸は今でこそ当り前のように使われていますが、大昔の舞台にはなかったものです。
それが寛永の頃になると、切戸を利用する演出方法が型付に記録されていると言いますから、舞台も見所も少しずつ変化して現在の能楽堂の形に落ち着いてきたことが窺えます。
出番を待つ演者達は切戸口に待機します。切戸を開けると前方は能舞台、後方が舞台裏。
切戸に手をかけるとき、舞台と舞台裏を分け隔てるこの切戸の存在が不思議に思えることがあります。


 
この度、私なりの視点で思った事、主に舞台の裏、内側からとりとめもなく綴る随筆を企画しました。それがこの「切戸口(きりどぐち)」です。
夢のような能が繰り広げられる舞台からの声だけではなく、
舞台裏の声もまた聞こえても良いのではと、口を開くことにしました。
(掲示板のように問答する目的のものではありませんので、その点は悪しからずご了承願います)

では、そろそろ切戸を開けてみましょうか。



まず、この切戸口でのお作法ですが、演者は左足より出、舞台を踏むことになっています。
さあ、能をご覧になるときに切戸口をよく見ていてください。
左足から舞台に出られる方が何人いるでしょうか?
通常、切戸は楽屋働きや手の空いている者が開閉して、演者は切戸に触れないことになっています。
稀に演者が切戸を開け、下に居て自ら閉めることがありますが、人手が足りない
ときや緊急時にこのような場面が見受けられます。

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