第11話 シテ方の後見

能や狂言では紋付、袴姿(大曲のときは裃や長裃を着用)の後見(こうけん)が必ず後見座に座ります。お囃子方にも後見がありますが、ここでは私の属している喜多流を例にあげながら、シテ方の後見についてお話ししたいと思います。


喜多流の場合、大曲に限り三名で後見を勤めますが、通常は二名です。
後見はリーダーの役割を担う主後見(おもこうけん)と副後見に分かれており、二名の場合は正面席からご覧になって左側が主後見です(この配置は流儀により異なります)。また、三名の場合は前後二列に座りますので、前列の一名が主後見、後列の二名が副後見となります。

後見の基本的な役目は、後ろから舞台を見守り、演能が滞りなく進行するように支援することで、その役割は舞台裏から始まります。楽屋では装束や小道具の点検、装束の着付けを行います。シテが舞台へ出ると、後見は切戸口から出て後見座に座ります。舞台の進行に目を配り、作り物の出し入れ、演者への小道具の受け渡し、物着(ものぎ、舞台上で装束を替えること)の世話、時には演者が絶句した場合の助言など、具体的な役割の範囲は多岐に及びます。ともすると、後見は黒子的な役割のように誤解される場合もありますが、黒子と決定的に異なる重大な責任を背負わされています。それは、シテに大事が生じたときに、すぐに代役を勤めなくてはならないという点です。つまり、後見はシテと同格かそれ以上の技量を持ち合わせた者でなければ勤めることはできません。ですから、シテ方での位付けはシテ、シテツレ、主後見、地頭、副地頭となり、後見は非常に重く扱われています。

昔は、着付師、作り物の製作者など専門職の方がいらっしゃったと聞いています(京都だけは今も作り物を作られる方がおられるそうです)。しかし、現在はこのような専門職の方がいなくなったため、シテ方では、シテ、後見、地頭を勤められることが目標のひとつになります。つまり、舞と謡はもちろん、楽屋働きも含めて舞台全体を包括的に進行させる能力が求められており、これらを修得、把握した者が一人前の能楽師と言えるのだと思います。

写真 道成寺 粟谷明生 主後見 粟谷新太郎 副後見 高林白牛口二 撮影 あびこ喜久三

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