能の舞は基本の型が組み合わさって構成されています。
最初の仕舞のお稽古を思い出してみてください。
最初の曲『湯谷』では「下居」、「シカケ、ヒラキ」、「サシ廻シ」、「シトメ」、「上羽(あげは)」、
「左右」、「拍子」など、先生が説明する型の名前を聞きながら、動作を真似て覚えていったことと思います。入門当初は、型の名前よりも動き自体とその組み合わせの順番に注意が集中してしまいます。
つまり、曲の最初から最後までの動きを鵜飲み状態で覚えられる方が多いようです。
しかし、少し馴れてくると、「シカケ」という言葉を聞いただけで、左足から出ながら両手を前に突き出し、
右足をつけて止まるという動作が、反射的かつ自然に出来るようになるはずです。
こうなれば占めたものです。
6?7番の仕舞を稽古してレベルが上がってくると、型付の型の名前を見ただけで、
習っていない曲でもおおよその動きと流れが把握できるようになります。
ひとつひとつの型はさほど複雑ではありません。
たとえば、『湯谷』の場合、13の型を覚えるだけで舞うことができます。
また、喜多流の基本の型は47程度ですから、一旦覚えてしまえば様々な曲が舞えるようになるものです。
お素人の方が発表会で型(動作)を度忘れしてしまった場合など、
私たちは後ろから型の名前を告げてアドバイスします。
ですから、型の動きと名前をセットで覚えておくと、いざという時に助かるものです。
ひとつ面白いお話しをご紹介しましょう。
いつものように、父が弟子に仕舞の稽古をつけていました。
弟子の一人が『羽衣』の「笙笛琴箜篌(しょうちゃくきんくごお)…」という詞章の前で
型を忘れてしまい、立ち往生してしまいました。
父が空かさず、「身ヲ替(みをかえ)」と注意を飛ばします。
しかし、この弟子、型の名前を覚えていなかったので、引き続き立ち往生。
またまた、父が型の動きを見せながら、大きな声で型の説明を始めました。
「身ヲ替とはねーーー足を右にねじり、右に向きながら、右手は上羽の後半。
次、左にねじって正面に引きつけるーーー」と。
最後に弟子全員に「分かったね!覚えなさいよーーー!」と。
次の弟子の稽古が始まりました。
『東北』です。「澗庭の松の風ーーー」の詞章で身ヲ替のはずが、この弟子も立ち往生。
父が立ち往生の弟子の傍らで、またもや型の動きを見せながら、
振り向き様に残りの弟子たちに向かって言いました。
「このかたは?」
「ーーーーーー」
「おいっ!このかたはっ?」
「———————————-遠山さんですぅ」
仕舞を習われている方、とにかく型の名前はしっかり覚えましょう!
身ヲ替
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