能に於ける場面転換

 能『是界』では、大唐(中国)の是界坊(シテ)という天狗の首領が「これから日本へ仏法を妨げに行く」と名乗り、道行(ある場所から次の到着地点までを表す3、4分程度の謡)を謡い終えると、着き台詞の「急ぎ候程に、はや日本に着いて候」とあっという間に中国から日本の愛宕山に着いてしまいます。なんという速さ!
 この大胆な演出は観阿弥や世阿弥などの室町時代の優れた戯曲家の発想ですが、大道具、小道具を使わず素早い場面転換を可能にしています。
観客は謡の詞章から、「うあー! 中国からもう日本に着いてしまった」と、頭の中で場面転換を迫られるわけで、観客としての大事な作業です。この作業を怠ると物語の進展がチンプンカンプンになり、見ていてつまらなくなるかもしれません。
 能は、これくらいのスピードにはついてきてほしいという前提で演出されているようです。

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